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#私の掛川100景 〜中央大学・工藤裕子教授のおすすめコース〜
「あなたが掛川に来た人を連れていくならどんなところ?」
そんな問いに、さまざまな人に答えてもらう企画「#私の掛川100景」。
今回おすすめコースを紹介いただくのは、中央大学の工藤裕子(くどう ひろこ)教授です。
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工藤 裕子
中央大学法学部教授。Ph.D.(公共政策学)。公共政策学、公共経営論専攻。愛知淑徳大学現代社会学部専任講師、早稲田大学教育学部専任講師、助教授を経て現職。内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員等を歴任。行政のデジタル化、スマートシティ、地方行財政改革などを研究。
先生は2004年から掛川市を学びの場として公共政策を学ぶ学生たちのフィールドワークを実施。以降10数年間にわたり、掛川市職員と市民が中心となって講師・ガイドを担う学びの旅に、掛川を訪れています。
さて工藤先生はどんな掛川をおすすめしてくれるのでしょうか?
1. JR掛川駅在来線側(北口)木造駅舎
2008年にJR東海が駅舎の耐震建て替え工事計画を表明したものの、市民団体を中心に掛川駅木造駅舎を保存・活用する会が設立され、その後、掛川市とJR東海は掛川駅舎の外観を復元する方法により耐震化工事を実施することで合意。
また、木造駅舎保存寄附金は目標額5,000万円を達成した。
歴史の尊重、市民の行動力、そして根付いた寄附文化。掛川らしいエピソードの詰まった歴史的な風景の代表格の一つ。
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2. 掛川市役所の議場の外観デザイン
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榛村語録(※1)によると、まずは『あれはなんだ効果』。
新幹線の車窓から見て、「あれはなんだ?」と思わせる。
建設された当時、名古屋に新幹線通勤をしていた私は、天体観測所のドームと誤解。
議場の中から天井を見上げると、二枚の貝殻が合わさっている形で、それぞれ行政と市民が手(指)を合わせている姿らしい。
日本の地方議会では珍しい円形の議場は、行政と市民(の代表である議員)が相対するのではなく、共にあることを象徴する。
榛村哲学(※2)の象徴のような議場。
(※1)1977年から2005年までの7期28年にわたって掛川市長を務めた、榛村純一氏が言ったとされる言葉。
(※2)榛村純一氏がまちづくりを行ううえで大切に考えていたこと。
3. 大日本報徳社の正門(道徳門・経済門)
「道徳のない経済は悪であり、経済のない道徳は戯言である」という報徳の教えを体現した門。1909年建立の県指定文化財でもある。
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SDGs(※3)やESG(※4)などが注目されるようになったのは21世紀になってからであることを考えると、報徳の教えの先見性に驚かされる。
(※3)『Sustainable Development Goals』の略で、国連総会で採択された2030年までの間に達成を目指す『持続可能な開発目標』のこと。
(※4)環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceの頭文字を取った言葉で、企業の経営や投資活動においてこれらの観点を考慮すること。
4. 竹の丸
江戸時代から続く葛布問屋「松屋」を営んでいた松本家が明治36年に本宅として建築した。当初は平屋の寄棟造りだったが、大正9年頃に離れを二階建てに改築している。
さまざまな趣向を凝らしたディテールも素晴らしいが、二階からの眺めがなかなか。庭も赴きがある。
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2007年から2009年に大規模な修復が行われたが、その前後を通してスローライフスクール等のイベントが数多く実施された舞台でもある。
建築としての味わいと場としての意義が詰まった建物。
5. 資生堂企業資料館
高宮眞介、谷口吉生両氏の設計によるモダニズム建築で1979年の『日本建築学会賞(作品)』も受賞しているアートハウスも素晴らしいが、個人的な推しは企業資料館。
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こちらは1992年の開設で、資生堂の創業120周年を記念して創設されたもの。貴重なアーカイブが収集・展示されている。
ソーダ・ファウンテンと創業時の銀座のジオラマは何度観ても飽きない。展示されているアーカイブにもいつも新しい発見があるが、収蔵されている「お宝」は圧巻。
6. 天竜浜名湖線の原谷駅とその近くの「田園滑走路」
とにかく味のある木造駅舎。
テレビドラマ『WATER BOYS2』(2004)には姫乃駅として登場。
そしてその近くにある「田園滑走路」。天竜浜名湖線の線路と並行している一本道は、自転車で疾走しても気持ちがいい。
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ベストなのは新緑の季節。緑に香りに包まれながら風を感じることの出来る、貴重な場所。
7. ねむの木村(ねむの木学園とねむの木こども美術館)
そもそも宮城まり子氏が掛川市にねむの木学園を設立したことがある意味奇跡としか言いようがない。
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同学園が1968年に日本初の肢体不自由児養護施設として誕生したのは、インクルーシブやアートが掛川の地域に根ざしていたことによる必然なのか、このような施設を全国で初めて受け入れた地域だったからインクルーシブやアートに目覚めたのか、悩むところではあるが、それはおそらく重要ではない。
8. さくら咲く学校(旧原泉小学校)
春は校庭の桜が圧巻。名前の由来が納得出来る。
廃校の利活用は全国的な課題であるが、ここはなかなか雰囲気もある。
アトリエが多いのは掛川らしいか。
調理室が結構充実している。
調理実習室のイメージで行くと、いい意味で裏切られるかも。
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9. 茶草場農法と粟ヶ岳の「茶文字」
日本では15地域が認定されている世界農業遺産の一つ、茶草場農法の地。生物多様性にもつながる、伝統的な農法によるお茶栽培である。
そして、「茶文字」。
何と昭和7年頃に東山のお茶の宣伝のため、茶業組合や村民が力を合わせ、粟ヶ岳の急斜面に松の樹を植え付けたのがはじまりだという。
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茶の字の形に植樹するため、白い紙を付けた縄を持って並び、それを向いの山から遠望して、手旗で合図して調整を繰り返したとか。発想と行動に驚きをおぼえざるを得ない。
初代の松がマツクイムシの害にあったため、後に現在の檜に植え替えられたとのこと。
自分の頭で考え、その場で感じること
この記事のタイトルに“おすすめ”と入っているが、私が気持ちいいと感じた景色、感じ入った場所を挙げただけで、厳密に言うとおすすめではない。その点ご注意を。
掛川へフィールドワークに来る際、学生から「参考にしたいので、過去の先輩の発表資料を見せてください」との要望がままある。
しかし私は見せない。
見本やマニュアルがあると、どうしてもそれに引っ張られてしまう。
掛川という1つの場所をどう見たらいいか、どう考えたらいいか。
大切なのは自分の頭で考え、その場で感じることだ。
だから私の口から掛川について語ることも基本しない。
まちの人から話を聞いて、そこで「お〜」となる方がずっといい。
工藤裕子
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