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掛川100景 【No.65】 時ノ寿の森

未来の森をやさしく紡ぐ場所。時ノ寿の森が描く自然との共生

掛川市倉真(くらみ)地区に位置する「時ノ寿の森(ときのすのもり)」は、かつて廃村となった地域を再生し、自然と人が共に生きる場を目指して、取り組みが進む地域です。

認定NPO法人時ノ寿の森クラブが中心となり、荒廃した森林の再生から活動をスタート。山での暮らしや遊び体験を軸に置きながら、環境教育や地域活性化の拠点として機能しています。

森林再生と持続可能な社会づくりに向けた独自の挑戦は、日本の森林保全のモデルケースとしても注目されています。


時ノ寿の森をどうミルか?👀

👀01. 時ノ寿の森とは?廃村から始まった再生の物語

時ノ寿の森は、1975年に最後の住民が去り廃村となった掛川市倉真大沢集落からはじまりました。

かつてこの地域では、人々が山と共に生き、その恵みを大切にしながら暮らしていたそうです。しかし、高度経済成長期を経て人々が山を降り、手入れされなくなった森は荒廃。沢の水量も半減し、生態系の乱れが深刻化しました。

この状況を憂いた集落最後の住人だった松浦成夫(まつうら しげお)氏が中心となり、1996年に「炭焼きルネッサンスの会」を立ち上げ、森林再生への第一歩を踏み出しました。

力強く刻まれた「時ノ寿の森」の文字が印象的です

その後、2006年に19人の有志とともに任意団体「時ノ寿の森クラブ」を発足させ、本格的な森林保全活動を開始。徐々に活動の幅を広げながら、2010年にはNPO法人化しました。

「あるべきもの」を「あるべきところに」という理念のもと、荒れた林道の整備や間伐(かんばつ)作業を地道に続け、少しずつ昔の里山の風景を取り戻しています。

👀02. 人と森を結ぶ「時ノ寿の森クラブ」の活動とは?

「時ノ寿の森クラブ」は森林再生を核としながら、人と森を結ぶさまざまな活動を展開しています。

森林整備を行うには、山林所有者の許可が必要です。
地元ならびに県外に散らばる山林所有者に協力を呼びかけ、賛同を得ることで、持続的な間伐や保全活動の基盤を整えました。

2008年からは林業事業体と連携し、「森の力再生事業」による間伐を進め、2020年3月までに延べ440ヘクタールの森林を健全な状態へと再生を促しました。

また、都市住民と山をつなぐプラットホームとして、2008年にクラブハウス「森の駅」を建設。森で育った木材を使用して建てられたこの施設は、2018年に誰でも利用できる宿泊施設としてリニューアルしました。

小鳥のさえずりで目覚め、清流に足を浸すなど、都会では味わえない癒しのひとときを体験できます。

クラブハウス「森の駅」は時ノ寿の森の木材を使って建てられました

さらに、2014年には一般の人が気軽に立ち寄れるビジターセンター「森の集会所」を開設し、読書スペースやヤギとのふれあいコーナー、炭焼き工房など、幅広く体験の場を提供しています。

ビジターセンター「森の集会所」
読書スペースには本がいっぱい並んでいます

👀03. 山の恵みを感じるさまざまな体験プログラムを提供

時ノ寿の森では、訪れる人々が山の恵みや豊かさを直接体験できるプログラムを用意しています。

その一つが「森のようちえん」です。
森のようちえんは、幼児(年少~年長)を対象にした預かり型の通年プログラムです。

子どもたちは、のこぎりを使った木工体験や火おこし体験、源流の沢歩き、里山の生きもの探しなどの体験を通じて、四季を豊かに感じながら成長できます。

ノコギリを使った木工体験。みんなで協力して木のメダルを作ります
マッチで火おこしにチャレンジ。果たして火はうまくつくのでしょうか?
源流の沢でサワガニを発見。時ノ寿の森は多様な生きものにあふれています

このほかにも、小学校1年生~3年生を対象とした「森のキッズ」や、小学校4年生~6年生を対象とした「里山ジュニアレンジャー」など、子どもの成長に合わせたプログラムが用意されています。

トレッキングコースでは、海まで一望できる景色を楽しみながら森林浴を体験できます

今回取材協力いただいた時ノ寿の森クラブ・事務局長の大石さんは「ネットや本の知識だけでなく、森の中で本物に触れて得た知識を大切にしてほしい。やがて、子どもたちが主体的に森に貢献し、自分たちの言葉で森の大切さを伝えられるようになってほしい」と語っていました。

認定NPO法人 時ノ寿の森クラブ 事務局長 大石 淳平さん

👀04. 時ノ寿の森クラブが描く「夢マップ実現プロジェクト」

時ノ寿の森クラブの活動は森林保全だけにとどまりません

2010年のNPO法人化を機に、山だけでなく市街地や海岸域にまで広がっている時ノ寿の森クラブの活動。

活動の中で生まれた「夢マップ実現プロジェクト」は、森を再生し、自然と人が共生する持続可能な社会を目指す取り組みです。

時ノ寿の森に関わるみんなで描きあげた夢マップ

このプロジェクトでは、会員や地域住民、企業と協力して作成した「夢マップ」に描かれた理想の森を実現することを目標に設定。

このマップに描かれた内容は、森林整備や植樹、森のようちえんなどの活動を通して、着実に目標の実現に近づいています。

森のようちえんから多くの家族へ森と共生する輪が広がっています

「未来の世代に豊かな自然を引き継ぐ」という理念のもと、時ノ寿の森は持続可能な社会づくりの実践の場として今後も挑戦を続けます。

「夢マップ」に描かれているヤギさんもいました

◼️ 抜け道&寄り道100景~時ノ寿の森

  • 「時ノ寿」は今から100年以上前の人々が、森への感謝の気持ちから名付けた地名

  • ゲストハウス「森の駅」では五右衛門風呂に入ることができる

  • 時ノ寿の森ではシカやカモシカなどの獣害が増えており、獣との付き合い方が課題になっている


学びの問い

「子どもの頃に体験した自然遊びで、今も記憶に残っているものは何だろう?」
「自然と人間が共生するために、まず最初に自分にできる行動は何だろう?」


NPO法人時ノ寿の森クラブ
所在位置:〒436-0341 静岡県掛川市倉真7021
TEL:0537-28-0082
ホームページ :https://tokinosunomori.com/

アクセス
東名高速道路 掛川インターチェンジから北に15km(約30分)
国道1号線 西郷インターチェンジから北に10km(約20分)