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掛川100景 【No.32】 大日本報徳社

報徳思想を通じて描くやさしさと、持続可能な未来

『大日本報徳社(だいにほんほうとくしゃ)』は、二宮尊徳(にのみやそんとく)の報徳思想を伝える、掛川市の文化的拠点です。

200年以上前に生まれた報徳思想は、大日本報徳社を中心地として、掛川のまちづくりに大きな影響を与えてきました。

今回は大日本報徳社の成り立ちや建物、報徳思想の教えについてなど、さまざまな視点から大日本報徳社を探ります。


大日本報徳社をどうミルか?👀

👀01. なぜ掛川に?二宮尊徳の教えと大日本報徳社の設立

二宮尊徳は『二宮金次郎』としても知られる、江戸時代後期(1787年〜1856年)に活躍した農政家であり、思想家です。

学校のロータリーなどで、薪を背負って本を読みながら歩く金次郎像を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

大日本報徳社にも、もちろん金次郎像があります

神奈川県小田原市の農家に生まれた尊徳は、小さい頃に川の氾濫(はんらん)で家の田畑を失います。しかし逆境に負けることなく、勤労に励みながら独学で見識を磨き、それまでの経験と独自の発想をもとに『報徳思想』を考えました。

しかしなぜ尊徳の教えが、掛川市で広められているのでしょうか?
それは、尊徳の弟子である岡田佐平治(おかだ さへいじ)が掛川市倉真(くらみ)の出身だったためです。

岡田佐平治とその息子の良一郎(りょういちろう)は報徳思想を学び、掛川藩内の農村復興に尽力。明治8年(1875年)に『遠江国報徳社(とおとうみのくにほうとくしゃ)』が創設され、これが後の大日本報徳社の起源になりました。

大日本報徳社では、報徳の教えを学ぶために明治36年(1903年)から毎月欠かさず常会(じょうかい)が開かれており、令和6年(2024年)12月で1790回を迎えています。

👀02. 和洋が融合した日本最古の木造公会堂

大日本報徳社の象徴的な建物である大講堂は、明治36年(1903年)に建設された日本最古の木造公会堂です。

この建物の外観は、1階が和風、2階が洋風という和洋折衷(わようせっちゅう)の独特な造りで、国の重要文化財に指定されています。

日本瓦と洋風窓の組み合わせが明治時代の建築美を感じさせます

大講堂の大広間を見渡すと、伝統的な建築技法が用いられ、当時貴重だったガラスが使われるなど、和洋の技術がうまく融合していることを確認できます。

大講堂の中を見回して建物の雰囲気を感じてください

大日本報徳社には、見ておきたい建築物として大講堂以外にも

  • 正門

  • 仰徳記念館(こうとくきねんかん)

  • 仰徳学寮(こうとくがくりょう)

  • 冀北学舎(きほくがくしゃ)

  • 淡山翁(たんざんおう)記念報徳図書館

があり、いずれも県指定文化財です。

現在事務所として使われている仰徳学寮(こうとくがくりょう)も風格があります

👀03. 報徳思想の4つの柱と重要な教え

報徳思想の核心は「徳を以って、徳に報いる」という考えにあり、人間が天地や先祖からの恩恵によって生かされていることを認識し、その恩に報いることを説いています。

『至誠(しせい)』『勤労(きんろう)』『分度(ぶんど)』『推譲(すいじょう)』は、報徳思想を実践するうえで重要なの4つの柱です。

  1. 至誠(しせい):真心を持って物事に取り組むこと

  2. 勤労(きんろう):物事をよく観察・認識し、社会に役立つ成果を考えながら働くこと

  3. 分度(ぶんど):自分の置かれた状況や立場をわきまえ、それぞれにふさわしい生活をすること

  4. 推譲(すいじょう):将来に向けて、生活の中であまったお金を家族や子孫のために貯めたり(自譲)、他人や社会のために譲ったり(他譲)すること

報徳思想には、この他にも重要な教えが存在します。

万象具徳(ばんしょうぐとく):あらゆるものに徳があるという考え方
積小為大(せきしょういだい):小さな努力を積み重ねることで大きな成果につながるという教え
一円融合(いちえんゆうごう):すべてのものが互いに働き合い、一体となって結果が生まれるという考え方

報徳思想の教えを自分が取り組んでいることに当てはめて考えてみると、新たな発見があるかもしれません。

👀04. 報徳思想とSDGsには共通点がある!?

『SDGs(エス・ディー・ジーズ)』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

SDGsは『Sustainable Development Goals』の略で、日本語に訳すと『持続可能な開発目標』です。2015年に国連で採択され、2030年までに達成すべき17の国際目標を示しています。

SDGsにおける17の国際目標
1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう

17の目標がわかりやすくアイコンで並べられています

そんなSDGsですが、200年以上前に生まれた報徳思想との共通点が多く存在します。

共通点1:持続可能性の追求

報徳思想における『分度(ぶんど)』の考え方は、能力と環境に応じて適切に生活することの大切さを伝えていて、これは持続可能な暮らしを目指すことでもあります。

SDGsにおいて『持続可能性』はメインテーマで、17の目標の中には持続可能性を追求するための目標が複数あります。

共通点2:経済と道徳の調和

報徳思想では、道徳をともなった経済活動を重視します。
「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という尊徳の教えがあり、これは経済と道徳はどちらか一方だけではだめで、2つの調和が重要であることを意味しています。

経済と道徳の考え方は、SDGsが経済成長と環境保護をともに達成しようとする点と共通しています。

大日本報徳社の正門の柱には『経済門』『道徳門』の文字が刻まれています

共通点3:包摂的(ほうせつてき)な社会の実現

報徳思想における『推譲(すいじょう)』の考え方は、余ったものを独り占めするのではなく、他の人に分けることを勧めています。

一方SDGsでは「誰一人取り残さない」を理念に掲げ、社会的包摂(※1)を大切にしています。

(※1)社会的包摂(しゃかいてきほうせつ)
ソーシャル・インクルージョン。社会的に弱い立場にある人々も含め、誰も排除されず、全員が社会に参画する機会を持つことを目指す考え方

このように、報徳思想とSDGsには多くの共通点があります。
共通点は他にもあるかもしれないので、ぜひ探してみてください。

◼️ 抜け道&寄り道100景~大日本報徳社

  • 金次郎像が足を一歩踏み出しているのには理由がある

  • 『信用金庫』は報徳思想から生まれた!?

  • 報徳図書館は掛川市中央図書館と一緒に建築賞を受賞したことがある

学びの問い

「昔の人は大日本報徳社をどのような気持ちで訪れていたのだろうか」
「掛川市の場所や、ひと、こと、もので、報徳思想が影響しているものはあるだろうか」


大日本報徳社
・所在位置:静岡県掛川市掛川1176番地
・ホームページ:公益社団法人大日本報徳社

アクセス
[車の場合]東名掛川ICより北へ2km、掛川バイパス西郷インターより南へ1km(駐車場:20台駐車可)
[公共交通機関の場合]掛川駅(北口)より北へ800m、徒歩10分