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掛川100景 【No.29】 尾白狐

古井戸から度々出現したとされる尾白狐

『尾白狐(おじろぎつね)』は高天神城に伝わる、白い狐にまつわる物語です。

尾白狐が登場する高天神城は、戦国時代の激動の歴史を今に伝える山城跡として知られており、「高天神を制するものは遠州を制す」と呼ばれるほど戦略的にも重要な拠点でした。

今回はそんな高天神城に伝わる、尾白狐の伝説について紹介します。


尾白狐をどうミルか?👀

👀01. 旧大東町に伝わる尾白狐の民話

尾白狐は、高天神城跡に出没したと伝えられる白い狐にまつわる民話です。

江戸時代、古井戸から度々出現したとされる尾白狐には、このような民話が残っています。

慶長年間の頃、高天神城跡(すでに落城していた)の古井戸の付近から怪物が出没し、人々を悩ましていた。小笠原右京進義頓がこの怪物を射止めたところ、真白な老狐であった。これを駿府の家康に献じ、小笠原の姓を尾白と改姓され、家紋をいただいた。

『だいとう小事典』より引用

ここに記されている慶長年間とは1596年〜1615年です。
つまりこの民話は、高天神城が落城してからおおよそ35年以内の話であることがわかります。

👀02. 『小笠原右京進義頓』を手がかりに尾白狐を探る

尾白狐に関する情報は少ないため、民話の中で出てくる『小笠原右京進義頓』という人物から手がかりを探ってみましょう。

この人物については『戦国史城 高天神の跡を尋ねて』という文献で触れられています。

小笠原右京進氏義
元亀天正の頃、高天神城追手池の段の大将として廊下三百余騎を従えた右京進氏義は、城主長忠の叔父に当る。天正二年開城の際、西退組として家康に属し、大須賀康高の配下に加わり義頼と改名した。
(中略)
高天神廃城後、落漠たる城址の井戸曲輪附近から怪物が麓に出没して人々を悩ましたことがあった。右京進義頼は夜毎に見回りした所、或夜明に近い頃井戸曲輪の茶の木の影に寝伏せて居るものを見つけて射取めた。人々が近寄って見ると、尾から腹下まで真白な老狐であったから、是を大御所に献じて事の次第を言上した。家康は刀を与え「後世迄是を家の守りとせよ。」と言って小笠原の姓を尾白と改姓を命じた。尚家紋も丸に井桁の中に茶の実を付けることにした。尾白家の紋所は今も井桁に茶の実のあるもので、尾白家の旧本宅の地は今も右京ヶ谷と言っている。子孫尾白家は近在に散在して居る。小笠原右京進尾白家子孫は、宝暦年間旗本下土方領長谷川の士として代官を称した。

『戦国史城 高天神の跡を尋ねて』より引用

『だいとう小事典』と表記は異なりますが、小笠原右京進義頓は『小笠原右京進氏義』すなわち『小笠原義頼(おがさわら よしより)』であると判断してよいでしょう。

この文献からは、尾白狐を射止めた際の様子や、民話の中で出てきた家紋についても具体的なデザインを知ることができました。

👀03. 尾白狐ゆかりの場所を探る

尾白狐ゆかりの場所は、高天神城の『井戸曲輪跡(いどくるわあと)』です。

『戦国史城 高天神の跡を尋ねて』には「井戸曲輪附近から怪物が…出没し」と書かれ、また井戸曲輪については「尚から井戸、かな井戸の別称がある」と説明されています。

つまり『かな井戸』の近くから尾白狐が出現したと考えられます。

高天神社の近くにある『かな井戸』。白い狐が現れるところを想像してみましょう

また近くには尾白稲荷(おじろいなり)があり、ここにも尾白狐の言い伝えが記されています。

ひっそりと佇む尾白稲荷

謎が多い尾白狐の手がかりを探しに、ぜひ高天神城跡を散策してみてください。

◼️ 抜け道&寄り道100景~尾白狐

  • 狐は「神使(かみのつかい)」や「眷属(けんぞく)」と呼ばれ、神さまのお使いをする霊獣として扱われることが多い

  • 掛川市文化会館シオーネで尾白狐が描かれた高天神城の御城印を手に入れることができる

高天神城の御城印

高天神社
・所在位置:〒437-1435 静岡県掛川市上土方嶺向2650
※「尾白稲荷」は高天神社の近くにある「かな井戸」前にあります。
・ホームページ:
高天神城跡 - 観光サイト
掛川のおもしろい伝説・逸話 - 掛川市

アクセス
[車の場合]東名掛川ICより約15分
※駐車場は、南口(追手門側):約10台、北口(搦め手門側):約100台
[公共交通機関の場合]JR掛川駅から静鉄バス「浜岡営業所」行または「大東支所」行で「土方」停留所下車、徒歩約15分

引用・参考文献
『だいとう小事典』発行年:1996年、企画・発行:大東町 商工観光課、編集・印刷:オオゼキ写真印刷(株)
『土方村誌』発行年:1913年、著者:土方尋常高等小学校/輯録、出版者:土方尋常高等小学校
『土方村誌』発行年:1989年、著者:土方尋常高等小学校/輯録、出版者:土方村要覧刊行委員会
『狐の日本史 古代・中世びとの祈りと呪術』発行年:2017年、著者:中村禎里、発行者:伊藤光祥、発行所:戎光祥出版株式会社